Knowledge GraphとMaterials Informaticsの融合が拓く新時代:プロローグ
MIの限界を超え、知識で拓く材料開発の新時代
Materials Informatics(MI)に関するブログシリーズが完結した今、改めて、実務家がMIに何を見出し、何を課題としてきたのかを振り返ってみると、その答えは明快です。MIは、膨大なデータから「何と何が関係しているか」という相関関係を見つけ出し、材料開発のプロセスを劇的に効率化しました。しかし、同時に「なぜその予測が導き出されたのか」という因果関係や科学的な根拠は、MIモデルの「ブラックボックス」の中に隠されたままでした。これでは、研究者の深い知識と直感に基づく意思決定を完全にサポートするには至りません。
また、Knowledge Graph(KG)に関するブログシリーズを執筆する中で、私はWikidataのようなオープンデータを使って化学の知識を体系化するプロセスを経験しました。この取り組みは、MIが苦手としていた「知識の体系化」と「データの相互運用性」という課題に、具体的な解決策を提示するものでした。しかし、Knowledge Graph単独では、そこにある知識を動的に活用し、新しい予測や発見に繋げることには限界があります。
この二つの経験が、私の中で一つの確信に変わりました。
MIが持つ「データから相関を抽出する力」と、Knowledge Graphが持つ「因果関係を含めた知識を体系化する力」を融合させることで、材料開発は次のステージへと進むことができるのではないか。
この考えは、私個人の発想だけではありません。LLMが物理法則を発見する可能性に言及した「LLM-Feynman」の論文や、LLMをKnowledge Graphの構築に活用するNECの先進的な取り組みに触れる中で、この方向性への確信を深めました。同様に、FAIR原則やセマンティック技術を用いてKnowledge Graphを構築する研究が、材料開発の分野で進められていることも知りました。
これまでのMIが「データの海を航海する羅針盤」だとすれば、Knowledge Graphは「海図そのもの」であり、両者を組み合わせることで、私たちはより信頼性の高い予測に基づき、未知の領域へと挑戦することができるはずです。
「データの海」と「海図」の比喩を視覚化した図。
本ブログシリーズでは、MIとKnowledge Graphの融合が、材料開発にどのような革新をもたらすのかを掘り下げていきます。単なる技術解説に留まらず、両者の融合がいかにしてMIの限界を克服し、実務における新たな研究開発スタイルを確立するのか、その可能性を皆様と一緒に探求していきたいと思います。
本シリーズの構成案
本シリーズは、MIとKnowledge Graph(KG)の融合が拓く、材料開発の新たなパラダイムを深く探求します。
第1章:MIとKnowledge Graph、それぞれの役割と限界
この章では、過去のブログシリーズ(MI編、KG編)で扱った知見を再整理します。MIがデータから法則を見出す強力なツールである一方で、「因果関係」の解明が苦手であること、そしてKGが知識を体系化する優れた器であるものの、単独では動的な予測に繋がりにくい点を解説します。
第2章:Knowledge Graph構築の実践:FAIR原則とセマンティック技術の活用
過去のKGシリーズで得た知見をベースに、MIとの連携を前提としたKGの構築方法を解説します。特に、データの再利用性を高めるためのFAIR原則や、意味的な繋がりを表現するセマンティック技術の重要性を具体的な例を挙げて掘り下げます。
第3章:MIとKnowledge Graphのハイブリッド活用事例
両者を実際にどのように組み合わせるか、具体的なユースケースを提示します。例えば、KGを用いてMIモデルの予測結果を解釈する手法や、データセット間の不整合(例:ポリプロピレンの検索漏れ)を知識で補完するアプローチなど、実務で直面する課題と解決策を具体的に示します。
第4章:未来展望:知識駆動型研究開発の可能性
本シリーズの集大成として、MIとKGの融合が拓く材料開発の未来像を描きます。 LLM-Feynmanのような最新の研究動向にも触れ、この新しい研究開発スタイルがもたらす価値(例:知識の継承、研究サイクルの加速)について考察します。
4. まとめ
本シリーズのプロローグでは、MIとKGを組み合わせることにより、実務者がMIの課題と考えていた「因果関係を含めた知識を体系化する力が弱い」という問題が解決できる可能性に言及しました。
また、本シリーズを通してどのような内容をお伝えしたいかについて、章立てで概要をお伝えしました。
いよいよ次回は、「第1章:MIとKnowledge Graph、それぞれの役割と限界」について、過去のブログ内容を振り返りつつ再整理をしたいと思います。楽しみにしていてください。